土曜未明、日本時間2026年8月29日の午前2時台にドル円のレートを確認したら、160円台に乗っていた。正直、驚いた。財務省が7月30日から8月26日までの1カ月間で過去最大となる15兆3993億円の為替介入を実施したと発表した、その数時間後の出来事だったからだ。介入という強力なブレーキを踏んだはずの相場が、なぜまた160円台まで戻ってきたのか。答えは金曜のニューヨーク時間にあった。
ウォーシュFRB議長、ジャクソンホールでインフレへの警戒を強調
8月28日、米カンザスシティ連銀が毎年ワイオミング州ジャクソンホールで開く経済シンポジウムで、ケビン・ウォーシュFRB議長が講演した。ジャクソンホール会議はFRB議長が金融政策の方向性を語る場として市場参加者が最も注目するイベントの一つで、今回は議長就任後初めての基調講演ということもあり、事前から関心が集まっていた。
FRB公式サイトで講演内容を確認すると、Fedが物価判断で重視するPCE(個人消費支出物価指数)は前年比3.7%、直近6カ月では4.1%まで上振れており、目標の2%を大きく上回っていると指摘していた。過去2年間の改善は「modest(控えめ)」にとどまり、集計対象の199品目のうち54%が過去12カ月で3%を超える値上がりを示しているという。ウォーシュ議長は短期金利が政策の「主要な手段」であるべきだと述べ、非伝統的な政策は危機時に限るべきだとの立場も示している。
みんかぶFXの報道によれば、議長は「インフレが目標に迅速に向かわなければやることがある」と述べ、追加利上げの可能性をにじませた。一方で労働市場は「かなり安定」と評価し、今注力すべきは物価だと強調、2%のインフレ目標が揺らぐことはないとも明言したという。タカ派とも取れるしハト派とも取れる、両方の要素を含む内容だったが、市場はインフレ警戒の部分を素直に受け止め、ドルを買い進めた。
ドル全面高でドル円は160円台、米2年債利回りも上昇
講演を受けて米2年債利回りは4.23%から4.29%台まで上昇し、ドル円は159.40円から160.16円まで買われた。確認した時点でも160円台での高値圏もみ合いが続いており、160.04円前後という報道もある。ユーロドルも対ドルで下落し、1.16の節目を割り込んだ。株式市場は講演直後こそ売りが出たものの、ダウ平均は小幅高に切り返している。
ダイヤモンド・ザイの記事では、ドル指数(主要通貨に対するドルの強さを示す指数)も200日移動平均線を上回って推移し、中期的な上昇基調を回復した可能性がある値動きになったと伝えている。200日移動平均線は過去200日間の終値の平均値を結んだ線で、中長期のトレンド判断に使う目安の一つだ。この動きを受けて、米短期金融市場は9月のFOMCでの利上げ確率を60%まで織り込んだという。
ドル円のチャートも見直してみた。週足では20週・50週・100週の移動平均線がいずれも上向きで、20週線が50週線・100週線の上に位置する並び(20MA159.752/50MA157.079/100MA153.157)になっている。直近105週の値幅は139.580円から164.089円で、大きな流れとしては上昇基調が続いていると読める。4時間足も20MA159.408/50MA159.162/100MA159.045と同じ並びで上向きに揃っており、短期的にも買いが優勢な地合いだ。一方で日足は20MA158.920が50MA160.879・100MA160.010の下にあり、並びが揃っていない。介入後の下落局面がまだ日足の移動平均に影を落としている格好で、週足・4時間足の勢いと日足の重さが同居している状態だと感じた。

過去最大の介入も効いていないように見える理由
ここで気になるのが、あれだけの規模の介入を打ったのに、なぜ相場はあっさり160円台へ戻ってきたのかという点だ。財務省は7月30日から8月26日までの1カ月間で15兆3993億円を投じたと発表しており、この金額は過去最大とされる。それでもドル高が続いているのは、介入が「時間を買う」対症療法である一方、金利差というより大きな力が働き続けているからだと考えている。ウォーシュ議長のタカ派的な発言で日米の金利差拡大観測が強まれば、円を売ってドルを買う動機はむしろ強まる。介入への警戒感と金利差拡大観測がせめぎ合っている、というのが今のドル円相場の実像に近いのではないか。

上下どちらのシナリオも、見直す水準を先に決めておく
ここから先は自分の見立てになるが、上振れシナリオとしては、9月FOMCで利上げ観測がさらに強まった場合、4時間足の直近高値である160.206円を上抜けて上値を試す動きになりやすいと見ている。ただし財務省が過去最大の介入に踏み切った水準の近辺でもあるため、上値では追加の口先介入や実弾介入への警戒感も強まりやすいはずだ。
下振れシナリオとしては、財務省の追加介入や、9月4日発表予定の米雇用統計が弱い結果になった場合を想定している。経済指標カレンダーによれば、非農業部門雇用者数(NFP)の市場予想は前月のマイナス2万3000人からプラス6万人への改善、失業率は4.2%、賃金上昇率は前年比3.3%が見込まれている。この結果が予想を下回れば利上げ観測が後退し、4時間足の直近安値である158.036円や、日足の20日線が位置する158.920円あたりまで調整が入る可能性を意識しておきたい。
どちらに転んでも不思議ではない綱引き状態だと感じている。だからこそ、ポジションを取るとしたら「どの水準まで来たらシナリオを見直すか」を先に決めておきたい局面だ。
指標発表前後は証拠金とロスカット水準への注意を
ジャクソンホール講演や来週の米雇用統計のような重要イベントの前後は、値動きが普段より大きくなりやすく、スプレッドが一時的に広がることもある。ロスカットは証拠金維持率が一定水準を下回ると強制的に決済される仕組みで、レバレッジを高くかけているほど値幅に対する耐性が薄くなる。指標発表が近いときほど、証拠金に余裕を持たせることと、想定より大きな値動きが出た場合の損切りラインを事前に決めておくことを心がけている。XMには必要証拠金を事前に確認できる計算ツールが用意されているので、ロットを決める前に一度目を通しておくと安心材料になる。
来週にかけて見ておきたいポイント
来週は9月1日のISM製造業景気指数、2日のADP雇用者数、そして4日の米雇用統計と、ドルの方向感を左右しそうな指標が並んでいる。ウォーシュ議長の発言と整合的な強い結果が続けば9月の利上げ観測はさらに固まりやすく、逆に弱い結果が続けば、過去最大の介入をこなしてもなお上値が重い展開に変わる可能性がある。来週の指標を確認しながら、ドル円の移動平均線の並びがどう変化していくかを追っていきたい。
