11月6日の夜、米10月雇用統計の発表直後のドル円を5分足で見ていて、正直ちょっと拍子抜けした。雇用者数は予想を大きく上回ったのに、上げが長続きしなかったからだ。指標の結果を「予想より強いか弱いか」だけで読んでいると、こういう場面で手が止まる。私はいま、予想との差、前回値の改定、内訳の3つを分けて確かめるようにしている。今回の米雇用統計と、同じ日に出たカナダの雇用統計を材料に、その手順を整理しておく。
発表直後に予想と逆へ動くのはなぜか
米労働省労働統計局(BLS)の10月雇用統計の発表によると、非農業部門雇用者数(nonfarm payroll employment)は16万5000人増、失業率は4.1%だった。OANDA Labの速報が示した市場予想は6.5万人増なので、見出しの数字だけなら文句なしに強い。
それでも、みんかぶのNY為替序盤の記事は、強い内容の割にドル円の反応が鈍く、一時上昇したあと発表前の水準へすぐ戻したと伝えている。私が取得したUSD/JPYの5分足で、発表直前の足と発表の足を並べると次のようになる。
USD/JPYの2026年11月6日22時25分始まり(JST)の5分足の終値158.364円から2026年11月6日22時30分始まり(JST)の5分足の高値158.614円までの距離は25.0pips。
USD/JPYの2026年11月6日22時30分始まり(JST)の5分足の高値158.614円から2026年11月6日22時30分始まり(JST)の5分足の終値158.449円までの距離は16.5pips。

強い結果なのに伸びない理由は、ひとつではない。まず、強さがすでに相場に織り込まれていた可能性がある。OANDA Labの速報では、12月会合までの利上げの織り込みは72.8%から76.8%への小幅な上昇にとどまったとされる。金利の見通しがあまり変わらなければ、通貨も大きくは動きにくい。次に、見出し以外の項目が強さを打ち消したり、逆に上乗せしたりすることがある。ここを切り分けるのが、これから書く3つの確認だ。

予想との差:市場予想と実際の数値の比べ方
最初に見るのは、市場予想と結果の差だ。市場予想はエコノミストの見通しを事前に集計したもので、相場は発表前からこの数字を前提に値付けされている。だから効くのは「良いか悪いか」より「予想からどれだけ外れたか」になる。今回の雇用者数は予想6.5万人増に対して16.5万人増で、差は10万人あった。
ただ、差の大きさをそのまま値幅に置き換えるのはやめておいたほうがいい。予想の数字は情報源によって少しずつ違うからだ。今回はみんかぶもOANDA Labも「予想を上回った」で一致していたので、方向については迷わずに済んだ。差が小さいときは、私は「ほぼ予想どおり」として扱い、次の2つの確認に重心を移す。
前回値の改定:見出しの数字を打ち消すケース
雇用統計では、前月と前々月の数字も毎回改定される。BLSの発表では、8月分が+13.3万人から+18.6万人へ、9月分が+2.9万人から+6.0万人へと、どちらも上方修正された。OANDA Labはこれを合計8.4万人の上方修正とまとめている。
今回は改定も同じ強い方向に出たので、見出しの強さを補う材料になった。逆のケースを考えるとわかりやすい。当月が予想を上回っても、過去2か月が大きく下方修正されていれば「雇用の勢いはもともと弱かった」と読まれ、当月の上振れが打ち消されることがある。私は発表を見るとき、当月の数字の横に改定がプラスかマイナスかを必ず並べる。
前回値が大きく動いたときは、予想との差の意味も変わる。予想は改定前の前回値を前提に組まれている場合があるので、当月の上振れ・下振れだけで判断を急がないようにしている。
内訳と関連項目:雇用統計やCPIで先に見る項目
3つ目が内訳だ。雇用統計なら、雇用者数のほかに失業率と平均時給を見る。BLSによると今回の失業率は4.1%、平均時給は前月比0.4%増、前年比3.1%増だった。OANDA Labが示した予想は失業率4.2%、平均時給は前月比0.3%、前年比2.9%で、どれも強い側に出ている。賃金は物価、ひいては金利の見通しにつながりやすいので、私は雇用者数と同じくらい重く見ている。
カナダの雇用統計も同じ日に出た。ダイヤモンド・ザイが配信した市場反応の記事によると、10月の失業率は6.7%で予想の6.5%を上回り、新規雇用者数は-0.47万人で予想の+1.5万人に届かず、カナダドルが売られた。失業率と雇用者数が同じ弱い方向に揃ったケースで、こういうときは解釈に迷いにくい。厄介なのは、雇用者数は強いのに失業率が上がった、というように項目どうしが食い違うときだ。
CPI(消費者物価指数)でも考え方は変わらない。総合指数と、値動きの大きい食品・エネルギーを除いたコア指数が別の方向に出ることがある。私はコアを先に見て、総合はその後に確かめている。
発表前に決めておくロット・損切り・初動を待つ時間
3つを確かめるには数十秒から数分かかる。そのあいだにも値は動くので、次のことは発表前に決めておく。
- ロット。想定損失は損切り幅(pips)×1pipの金額×ロット数で決まる。発表時は普段より損切り幅を広く取りがちなので、そのぶんロットを落として想定損失を普段と同じ水準に保つ。
- 損切りの位置。発表前の直近高値・安値の外側など、発表前にチャートで見えている水準に置く。
- 初動を待つ本数。私なら、発表の5分足1本が確定するまでは新しく入らない、を基準にする。
今回のドル円で言うと、日本時間11月6日21時05分から11月7日5時55分までに始まるUSD/JPYの5分足107本では、高値が158.614円、安値が158.000円だった。発表をまたいだ一晩の値動きとしては大きくないが、発表時の損切り幅をこの高安の間隔くらい取るなら、普段の損切り幅との比率でロットを落とすことになる。発表時刻と予想値は、前日までに確かめておくと準備に余裕が出る。
発表後の数本の足で判断を確かめる手順
発表の足が確定したら、次の順で確かめる。
- 発表の5分足の終値が、発表直前の足の終値より上か下か。髭の先ではなく終値で見る。
- 続く2〜3本がその方向を保つか、発表前の水準へ戻るか。
- 戻ったなら、予想との差・改定・内訳のどこかに逆方向の材料がないか、それとも織り込み済みだったのかを見直す。
今回のドル円は、みんかぶの記事が伝えたとおり、上げたあと発表前の水準へ戻った。3つの確認はどれも強い側だったので、内訳の食い違いでは説明しにくい。私は、利上げの織り込みが小幅な上昇にとどまった点のほうを重く見ている。指標が強くても金利の見通しが動かなければ、通貨は動きにくいという読みだ。
日本時間11月7日5時55分に始まった最後の確定5分足の終値は158.498円で、20MA(158.493円)、50MA(158.364円)、100MA(158.348円)が上からこの順に並んでいた。ここからは条件付きで見ておく。5分足が20MAの上を保ったまま158.614円を上抜けて定着するなら、強い雇用統計を遅れて織り込む動きと読める。逆に158.000円を割り込むなら、強い指標が出てもドルが買われにくい地合いだと受け止め、次の指標でも初動を待つ本数を増やす。どちらに転ぶかは決めつけず、週明けの足で確かめるつもりだ。
見出しの数字は入口にすぎない。予想との差、前回値の改定、内訳の3つを並べても読み切れないときは、初動の1本を待つか、ロットを落として臨む。指標の日に私が守りたいのは、結局その2つだ。
